大長編ドラえもんシリーズの歴史を見ると、一作目は恐竜。これはF先生が子供の頃から好きだったテーマだ。二作目は先生が当時よく映画で見ていた西部劇と昔から描いていたSFのミックス。ここまではF先生なら勝手に筆から出てきただろうという感じ。しかし、五作目のこれはなんとファンタジーだ。
実は、ファンタジーものというのはF先生はほかにほとんど描いておられない。このテーマ自体に挑戦するのも、これがほぼ初めてだったのではないだろうか。異世界転生モノにあふれる現代からは想像できないが、80年代初頭というのはファンタジーという分野そのものがまだ新しい時代だった。小説もまだそんなに出ていない。『指輪物語』の翻訳が1972年から刊行し始め、ル=グウィンの『影との戦い』の翻訳が出たのが1976年。しかしアニメを見ると、魔女っ子ものは60年代からあった。その元ネタはTVドラマの『奥さまは魔女』で、その元ネタは42年のルネ・クレールの映画『奥さまは魔女』だ。
しかし、この『ドラえもん のび太の大魔境』は魔女っ子ものにインスピレーションがあるというわけでもない。今見ると目新しくないかもしれないが、こういうジャンル自体が当時は存在しなかったので、F先生の完全なオリジナルだ。おそらく、SFとファンタジーは容易に変換できるということをいつからか気づいておられていて、アイデアを温めておられていたのだと思う。いや、今改めて見ても、こんなSFとファンタジーの融合ものは現在もほとんど存在していないかもしれない。なにしろ、いまのファンタジーものはほぼ全部ドラクエが元ネタだから。ちなみに、誰も指摘しないが、冒頭の石像の話、ドラクエ5の元ネタになっていると思う。
主題曲「風のマジカル」
さて、この五作目は実は現代の日本の文化を形作るうえで大切な作品だった。というのも、当時は毎年公開されるアニメ映画というものはドラえもん以外に存在しなかった。四作目の『のび太の海底鬼岩城』の興行収入があんまりよくなかったらしく、五作目のこれがもしまずいと打ち切りという話だったらしい。運よくこれがヒットし、以降途切れることなくシリーズ化されている。もし劇場版ドラえもんがシリーズ化されていなかったら、コナンもクレしんも、そのほか各種TVアニメの劇場版は作られていなかったかもしれない。F先生、それにシンエイ動画さまさまである。
ヒットしただけあって、お話も過去最高レベルに面白い。冒頭の石像のことを見ている側がすっかり忘れた頃にその話に戻るところがすごい。一番好きなところは、気分盛り上げ用で役に立たないはずのドラえもんの帽子が役に立つところ。2007年のリメイク版は演出面が向上し緩急がついていていいのだが、旧作のほうがドラミちゃんのもしもボックスがかわいい。